八代海からほど近い不知火地区は、かつては漁で取れた小さな魚などを肥料にして野菜を作っていた歴史があり、海と野菜作りがつながっていた地域。
澤村さんも以前は海に出ていた時期があったが、年々漁獲量が減っていく中で、トマト栽培に切り替えていったそう。「30歳の時にすべて有機に切り替えましたが、当初は技術もやり方もまったくわからず。教えてくれる人もいなかったので、完全に手さぐりでした。」
最初のうちは、とにかく良いと聞いたものはなんでも試してみたそう。しかしなかなかうまく行かず、ときにはトマトが病気で全滅することも。「いろいろ挑戦して、とにかくたくさん失敗しました。」そうして10年近い試行錯誤の末にたどり着いたのが、自然の環境を圃場に再現するというスタイルだ。
それは、野山が肥料も堆肥もふらずに、虫や病気にも負けずに育っていることにヒントを得たもので、自然に近い状態こそが土にも野菜にも負荷がかからないのでは、というもの。それには3つの特徴がある。
山から取ってきた土に、米ぬかや菜種かす、えびやかに・昆布などを混ぜて発酵させた、ぼかし肥料を作っている。ただし、「肥料をたくさんやれば体は大きくなり収量も増えるが、病気や虫にやられやすくなる」ので、自然のように最低限度の量で、かつ自然に近い栄養素を心がけているんだそう。これは、野菜を育てる基本は肥料でなく土だという考えによるものだ。
堆肥と肥料のほかにもう一つ自然の力を取り込んだものが、“天恵緑汁(てんけいりょくじゅう)”と呼ぶエキス。これはトマトの芽や生長の早いたけのこなどの植物を黒糖に漬け込んだもの。ビタミンやミネラルを多く含む黒糖に、生命力にあふれる植物の生長点を含む部分のエキスを抽出した、いわば植物のサプリ。これを葉や土に散布することで、植物の免疫力を高める狙いがある。
「野菜にとって堆肥や肥料は人間でいえば食べ物。いい食べ物で育った健康な野菜は、きっと人の体にもいいんじゃないか、という考えでやっていますが、まだまだこれからです。」
今なおより良い方法を探求し続ける澤村さんのトマト作りに、今後も期待が募る。