25年ほど前に群馬県倉渕村で農場を作ったのが私の農業人生のスタートです。最初からオーガニックを目指し、山地を切り開くところから始めました。2016年に八街で農場を開きました。最初は趣味の延長のようなものです。野菜の卸業との兼業で、作業はスタッフに任せ、私自身はたまに農場に寄るくらい。でも野菜がうまく育たない。やはり二足のわらじではダメだ、オーガニックを人生最後の仕事にするという思いで、私自身が農業に専念することにしたんです。
農業の基本はまず土作りです。いくら土を消毒しても、地中の菌バランスが悪ければよい作物は育ちません。オーガニック農業ではどうやって土に有機物を入れるか、いかに良い菌を増やすかが肝心です。優れた農家はとにかく土がいいんですよ。よい土なら素人でもよい野菜が作れますが、土が悪いと熟練の農家でもいいものは作れない。化学肥料で土が弱っているくらいならまだいいけれど、地下の水が抜けないような土はやりようがない。そんな場所を畑にできるまでは最低でも5~6年、手間もお金もかかります。農業は場所さえあればいいというものではないんです。
うちでは農作業の手が空いた時は周辺の環境整備をします。自社農地だけでなく近隣も回り、時には竹林の整理を頼まれたりします。切り出した竹材は自社に持ち帰って竹炭にし、堆肥に混ぜます。近隣農家さんから出るもみ殻やぬかも堆肥の材料になりますし、身の回りを探せば使えるものがたくさんある。地域の人たちとの交流があれば、それらが自然に集まるんです。工夫して役立てれば環境の循環が成り立ちます。
若い頃から私の周囲にいる優秀な人たちはみんなオーガニックをやっていました。オーガニック農家はみんな教えたがりなんですよ。教えたいことがたくさんあって、ひとつ聞くとものすごい量の答えをくれます。こんなにかっこいい人たちがみんなオーガニックをやっている、私は人に魅せられてオーガニックを始めたようなものです。若い農家さんたちもどんどん人と交流してほしいですね。その中からどんどん新しい方法を編み出して、もっともっとおいしいものを作ってほしいと思います。
オーガニックの基本を理解して農業を始めると、1~2年では無理でも5~6年たつと明らかに変わったことが肌でわかるようになります。例えばうちで与えるのは堆肥と緑肥のみですが、ちゃんと育つし、アブラムシもつきません。歩留まりがよく生産性も高く、お客さんからの評判もいい。オーガニック農業は本当におもしろいんですよ。いつか、そこら中がオーガニックという世界が夢です。いつかそういう世界を見たいと思ってやってきました。
うちでも作っているミニトマトの品種について、以前あまりおいしくないよねと言われたことがありました。それは化学肥料を使った栽培だからです。オーガニック農法で育てるうちのミニトマトは本当においしいですよ。長所は酸味と甘みのバランスのよさ、皮の薄さです。生はもちろんですが、さっと煮詰めてジュースにしてみてください。これがものすごくうまいんですよ。ミニトマトは大玉トマトより水分が少ないし、うちのは糖度11~12度ありますから。とにかく濃厚で甘い。おすすめです。
うちの野菜は土作りの基本を守り、手間をかけて作っています。
余計な手間はかけられないという人もいるでしょう。
けれど私たちはやっぱりおいしい野菜が作りたい。
自分たちが食べたいと思えるものを作りたいんです。